お侍様 小劇場 extra

    “冬の気配” 〜寵猫抄より
 


お庭にかぼちゃの置物がでんと置かれていたのを最後に、
季節は慌ただしくも駆け足を始めたようであり。
時折かき氷が恋しくなるほどの夏日が続いた秋は
猛然と遅れを取り戻すように駆け出してって、
アスファルトの上へ舞い落ちた木の葉がカサコソと侘しい音を立て、
素焼きの鉢に植えられたマリーゴールドのオレンジ色の花が
乾いた陽の下、精いっぱいに笑っておいで。

「みゃん…。」

窓の外では時折冷たい風が吹いていて。
ひゅうんひゅうんと意地悪なささやきを寄越してくるが。
でもでも、そんな気配もここには届かぬ。
やわらかいムートンの上へふわりとかかっているのは、やぐらこたつの掛け布団。
丁寧なお手入れの賜物で
ふんわりふっくら、雲の上に居るような心地のその敷物の上に、
小さなキャラメル色の毛玉さんがコロンチョと転がっており。
四肢を引っ込めての“箱座り”でも可愛らしいところだが、
油断しまくりなのがありあり判るそれ、
寸の足らない手足を真横へ投げ出す格好で
いかにも無防備におネンネしているおちびさんがおいで。
10月まではなかなか穏やかな日和が続き、
陽だまりに居ると汗ばむ程でもあったので、
家人はもとより、これのご贔屓である久蔵さんも
欠片も思い出さなんだのではなかろうかというコタツだが。
さすがと言っていいものか、
11月に入った途端、ぐぐんと気温が下がった日があって。

 『みゅう〜〜〜。』
 『ありゃまあ、寒いのかな?』

小さな前脚を胸の下へと縮こめて、
リビングのソファーの上で丸まってた小さき姿を見るにつけ。
自分と勘兵衛にだけは坊やの姿に見えてる仔猫。
フリースのようなトップス一枚におおわれただけの、
華奢な肩をふるると震わせつつという頼りなさ。
ぽわぽわの金のくせっけを透かして
つぶらな赤い双眸で じいとすがるように見上げて来られた日には、

 『判ったよ、久蔵。今すぐ出してきてあげようね。』
 『…相変わらずだの。』

愛しい我が子のためならば、
決死の覚悟で戦場にだって行ってくるよと言わんばかりの真剣本気。
白いお手々を胸の前にて握りしめ、
優しいおっ母様が凛々しい姿勢で向かったのは、
別棟の奥向きにある和室の押し入れ前。
毎年使っているものだもの、
裏の土蔵なんて仰々しいところへなんか押し込めておりません。
骨組み部分と脚とをばらしてあったの よいしょと抱え、
リビングへ運び入れたそのまま踵を返し。
掛ける布団は前もって陽に干しといたので問題もないと
別のお部屋のクロゼットから取り出して。
さすがに大きな嵩だけにぎゅぎゅうっと抱きしめるよな按配になり、
視界を遮られつつも何とか無事に運んでくれば、

 『ほれ、この上へ。』
 『あ、すみませんね。』

キャラメル色の毛玉さんを
雄々しくも頼もしい肩口に貼りつけているのは、
畏れ多くも家長を“早く早く”と急かした仔猫さんだったものか。
それも自分で手掛けるつもりだったやぐらが
勘兵衛の手で既に出来上がっていたうえへ、
言われた通り 羽毛の大布団をはさりと掛ければ出来上がり。
冬場の頼もしいお仲間、
コタツがこの冬初のお目見えで。

 『いやいや、猫には似合いの代物ですが。』

こちらの落ち着いたお宅では、縁がないままかと思ってたもんですがね、なんて。
どれほどスタイリッシュだと思われていたものか、
編集員の林田さんからそんな言われようをしたのも懐かしく。
出窓の手前の明るいところに勘兵衛が落ち着き、
悠然と両腕を開いて新聞を広げておれば、
その膝近くにクロが丸くなるのももはや定番。
隣りの一角に茶器を整えて来た七郎次がお膝をつけば、

「にゃ?」

そんな気配で目が覚めたらしい久蔵が、
何かおやつはなぁい?と、一丁前に背伸びをし、
盆を置くのに伸ばした腕へ ちょこりと小さな手を掛けてくるのが
何とも可愛すぎるものだから。

「〜〜〜〜〜っ。///////////」

萌えてしまって危ない危ないと、
そんな風景もまた帰ってきた、島田さんチの冬支度でございます。





   〜Fine〜  16.11.08


 *ヘイさんにしてみれば、勘兵衛が剣豪小説の大家なだけに。
  こういった暖を取るものとなると
  いっそ囲炉裏を切ってしまわれるんじゃないかと思ってたそうです。
  
  ちなみに、クリスマスツリーもすぐにも出せるところに準備してありますが、
  さすがにこれは12月手前だろうということで、
  島田さんちではまだなご様子です。

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